Let's see what I'm up to

福祉とか心理とか語学とか読書とか

【翻訳】すべての新人ソーシャルワーカーが支援対象者について知っておくべき10のこと

f:id:Najdorf:20160404010943j:plain

THE NEW SOCIAL WORKERという、ソーシャルワーカー向けキャリア雑誌のサイトにて、面白い記事を見つけた。

10 Things Every New Social Worker Needs To Know About People - SocialWorker.com

『すべての新人ソーシャルワーカーが支援対象者について知っておくべき10のこと』

おそらく児童・家族領域で働く新人ワーカーに向けた文章なのだけど、PSWはじめ他分野のワーカーにも有益な内容だと思うので以下に意訳を書き出してみる。なお、原文では無かった見出しを、訳出にあたり勝手につけてみた。

 

 『すべての新人ソーシャルワーカーが支援対象者について知っておくべき10のこと』

by リンダ・コンロイ(Linda Conroy)

はじめに

この記事を読んでいるということは、あなたは新人ソーシャルワーカーであるか、あるいは、なんらかの形で家族の支援に携わっているのでしょう。この業界はたいへんですよ。なんせ、人々の暮らしを仕事とするのですから。今回、みなさんにいくつかのアドバイスをお伝えする機会に恵まれてうれしく思います。アドバイスはどれも、私が児童保護サービス*1のワーカーとして仕事を始めたころに「誰かに教わりたいなぁ」と思っていたものなのです。願わくば、この文章が読者の皆さんと、皆さんが支援する家族をともに力づける助けとなりますように。また、皆さんがこれまで無事に、そして元気に支援を務められてきたことへ、感謝を申し上げます。

 1.生粋のクライエントはいない

前もって、意図的に虐待やネグレクトをするクライエントはいません。ほら、生まれたばかりの赤ちゃんを見たときや、赤ちゃんを抱かせてもらったときを思い出してみてください。赤ちゃんは、今まで見たことないくらい、かわいらしい存在だったはずです。そんな赤ちゃんをもつ両親は誰でも、大きな夢や理想、計画を持っています。たとえ、両親が若かったり、充分な教育を受けていなかったり、貧しかったりしても、すべての親はひとしく夢や計画を持っているものです。もちろん、その家族計画には、家をなくすことや、誰かの被害に遭うこと、薬物依存に至ることなんて含まれていませんよ。つまり、子どもが生まれた段階では、やがて自分たちが両親としての務めを果たせなくなるとは想像がつかないのです。そして、これらの事態は物事がうまくいかない結果として起こりますが、うまくいかないのにはじつに様々な理由があるものです。もちろん、多くの両親は困難な場面においても、子どもにとって良いことを純粋にしてやりたいと思うでしょう。おそらく、虐待に至る両親は、物事に対処するためにやり過ぎてしまったか、的確な対処をするだけのスキルが足りなかったのです。さて、ワーカーであるあなたが、これからする支援は、彼らが今まで受けたことのないものとなるはずです。なにせ、彼らにとっては、恥じることや叱られることなく、安全で、安定していて、明日への希望につながる感覚を受け取るのですから。

 2.すべてのクライエントはユニーク

すべての状況はユニークです。すべてのクライエントはユニークです。すべての家族はユニークなのです。新しいケースを受け持つときに、「おっ、先月に担当していた家族と似てる。よし、簡単だな」とか「そういや以前、クライエントのお姉さんと同僚だったな。じゃ、クライエントもお姉さんと同じような人だろう」などと思うことがあるかもしれません。そんなときはこの言葉を思い出してください。同じじゃない、同じじゃない、同じじゃない、同じはずがない!そっくりに見えたり聞こえたりすることはあれど、まったくの同一と呼べることはありません!人はみなユニークであり、その人がどのような人なのか、自己紹介する権利*2を持っているのです。人はみなユニークなスキル、強み、性質を持っています。クライエントひとりひとりとお会いするときには、注意して見聞きしてください。

3. ワーカーは権力を持っている

ワーカーの持つ権力に注意するように。仮に、あなたが児童保護サービスのワーカー、カウンセラー、教師、保育者、その他、児童虐待に関する報告に責任を持つ存在だとしましょう。すると、クライエントである両親と、あなたが会話することは容易ではありません。とりわけ、クライエントが「自分たちの行いが間違いだったのでは」と不安に思うときは、普通に話すこともままなりません。そして、クライエントはあなたと対等で共通した関係性を築こうとしないでしょう。クライエントはワーカーのことを、「自分たちより優れていて、賢くて、とっても有能だ」と見なすでしょうし、「強い影響力、権限を持っている」ことも知っています。つまり、あなたは、クライエントの心配事となりうる存在なのです。虐待やネグレクトの恐れがあるクライエントは、あなたと話すときに恥じ入り、ばつの悪い思いでいるのです。そこでクライエントは、ワーカーに対して嘘をつくかもしれません。それは、彼らが不運な境遇だからとか、嘘で出し抜こうとしてるとかではなく、ワーカーに対して恐怖感を抱いているからなのです。また、彼らの人生において、権力者は信用ならないと学んできた可能性もあります。この恐怖感があるから、クライエントは深く考えることができずに喋ってしまいます。すなわち、彼らの話すことは「あなたにどうしても聞いてほしいこと」に限られてきます。ですから、ワーカーであるあなたも、権力の使いかたには注意してください。クライエントを恐れていたり、ちゃんと仕事をこなせるだろうかなんて不安がっていたら、いとも簡単に権力を振りかざしてしまいます。ワーカーは公平で、安心でき、思いやりのある、正直な態度で臨めば、クライエントの話す内容も増えることでしょう。

 4.話すよりも、聴くこと

聴くことは、話すことよりも役立ちます。ひとつエピソードを紹介しましょう。以前、とある家族支援会議に出席していたクライエントの女性に対して、わたしは「われわれ支援者は、あなたのお話を伺うために来ていますし、誰もあなたのことを、とがめたり叱ったりすることはありません」と告げて安心させようとしました。彼女は信じていない様子でした。それもそのはずです。このワーカー(筆者)は、「ギャング絡みの友人宅に子連れで出入りするようであれば、子どもの命が危ないですよ」とも言っていたのですから。すでにクライエントは、ギャングまがいのパートナーとは別れていましたし、母と暮らして生計を立てていたにもかかわらず、ワーカーの判断で、危険だからとギャングと一切縁を切るように諭されたのです。他の支援者もワーカーの言葉に頷いていました。彼女はというと、すっかり苛立った様子でした。どうすれば自分の子どもを大事にしていることを示せるのでしょう。ギャングの扱いにも慣れているし、あぶない輩の知り合いもいる。でもそれって、自分たちの周りのなにが危険かそうでないのかを判別できるってことじゃないの?とうとう、クライエントの生活のありかた、という名の小言に耐えかねた彼女は不満を口にします。「(支援者の)あなたがたはみな、私がどうやって生きてきたか知らないのでしょう。どうやって乗り越えてきたかなんて知るはずもないでしょう。散々言ってるくせして、ギャングについてまったくご存じないのでしょう。」会議室が静寂に包まれました。そうです、彼女の言うとおりです。支援者は、クライエントの話を聴いてよく学び、クライエントと一緒に生活の安全について話し合う必要があります。クライエントと比べれば、支援者はこれまで法律を破ったことがないでしょうし、素晴らしい肩書きや学位も持っていることでしょう。でも、私たち支援者がサービスを提供する彼らこそ、私たちが知らない物事をたくさん知っているのです。介入する家族になにが有効なのかを、彼らは知り尽くしています。クライエントの話を聴くこと、これはクライエントと支援者が共に得をすることなのです。そうやってお互いが前へと進んでいきます。

 5.どんな振る舞いもクライエントなりの対処法

クライエントは、自分がされてきた扱いを、他人に対してもおこなうものです。問題を抱えているクライエントは、ときにあなたに対して叫んだり、嘘をついたり、非難したりするでしょう。とはいえ、クライエントの振る舞いは、どれも実際に彼らの家庭で身につけてきたものなのです。おそらくクライエントは、自分がどう他人と接しているのか思い返すことや、丁寧に話すために自分を落ち着かせることを学んでいませんし、わめいたり芝居がかった言動以外の解決手段を知りません。そして、自分たちの暮らしをコントロールできるかどうか、明日への希望を持てるのかさえもわからないのです。だから、彼らの振る舞いを、単なるワーカーへの当て付けとして捉えないでください!どんなに重大な話題に触れているときでも、クライエントが安心して会話できるよう、取り計らいましょう。クライエントの抵抗をかわし、対立や言い争いを避けるのです。私たちワーカーが身構えてしまったら、クライエントの叫びを受け止める人は他にいないのですから。

 6.敬意を払うこと

敬意を持って接することこそが、利益につながります。クライエントに敬意を払うことは、あなたを無愛想・支配的・横柄な態度から遠ざけてくれます。何年も前だったか、私があまりに親切にクライエントへ接するのを見た同僚が、「そんな優しい態度じゃうまくいかないよ」と戒めたことがありました。「もっと断固たる態度で望むこと、それが肝心なのよ」同僚の言葉を、私は何分間か思い巡らしました。よし、親子のやり取りになぞらえてみよう。良き親が子どもの誤りを正すとき、そこには愛や気遣い、明確さが常にあるはず。その態度が明らかなら、子どもも疑いなく受け入れるだろうし、親が意図したとおりの結果になるのでは。あれっ、この考え、子どもだけでなく大人にも当てはまるのでは?そう、だから私は大人に対しても優しく接するのです!クライエントに私の言葉を伝えたいと思うなら、敬意を払うことです!

 7.クライエントは最善を尽くしている

クライエントはいつでも、そのときその瞬間においてベストを尽くしています。ではなぜ、私たちはクライエントに対して同情できなくなるときがあるのでしょうか。とりわけ、とうてい容認出来ないことをしてきたクライエントに対しては、もっとちゃんとしろよなぁ、なんて思ってしまいますよね。しかしながら、ちゃんと時間をかけて観察するとわかりますが、クライエントの言動には常になんらかの意味をはらんでいるのです。彼らを理解すればするほど、より親身になって気配りすることができます。クライエントの姿や振る舞いの裏には、必ず理由があるのです。ワーカーは、彼らが次の段階に進めるよう支援し、彼らが正しい方向へ進んでいるその一歩一歩を見分ける必要があります。したがって、彼らの振る舞いを罰するのは、あなたの仕事とはいえません。クライエントが変わっていく原動力は、屈辱ではなく、希望なのですから。

 8.クライエントの言葉でニーズは伝わる

クライエントは自分のニーズを伝える能力を持っています。かつて、若い母親との面接でのときだったか、私は彼女に「親としてうまくいったこと」を尋ねたことがありました。彼女はいくつか語っていくうちに、私が笑みを浮かべているのがわかると、どんどん話を続けていったのです。次に、「何がいちばん大変か」と尋ねると、彼女は「うーん、そうね、よく怒鳴っちゃうことかな。ときどき我慢できなくなっちゃうの」と、声を荒げることなく答えてくれました。「わかりました。それでは、一緒にどうやってこの問題を変えていくか考えていきましょう!」ワーカーが意識すべきは、叱らない、辱めない、怒らないこと。そして、クライエントの話を聴き、関心を持ち、支援計画を立てることです。そうすれば、どんなクライエントも良い気分のままで帰路につくでしょう。

 9.思いやるということ

クライエントは、あなたの心遣いを欲しています。これはもはや脳レベルの話であって、認知するよりも先に、感情に関する領域がそうさせているのです。クライエントは、ワーカーがどれだけものを知っているかとか、重要な立場にあるとかについては、あまり気にしていません。彼らが問題にするのは、自分たちが話したことを出発点に、ワーカーであるあなたが支援するかどうかなのです。ワーカーは、クライエントの名誉を潰さないように。また、クライエントに「自分たちは変われる」と実感させるように接しましょう。それはなぜかって?あなたの人生で辛かったときのことを思い出してみてください。あなたが正しい決断ができるよう助けてくれた人は、あなたのことを心遣い、信じてくれた人でしたよね?支援において、思いやりを示すときには、適切な境界と現実的な期待が同時に存在するのです。(訳者注:ワーカーとクライエント間の距離は保ちつつ、個人的な関心を示すとベター、ということか?)

 10.ワーカーもクライエントと同じ人間である

ワーカーであるあなたの存在が、すべての物事に影響を与えるのです。面接をしているときに、「もしかしたら自分がクライエント側の席に座っていたかも」なんて考えたことがありますか?あなたがこの仕事に携わっているのは、落ち込んだり、ふさぎこんだり、混乱したり、権利を奪われたときの気持ちを知っているからなのでしょうか?あるいは、恵まれた家庭に生まれ、立派な教育を受けることができたからなのかも?経緯はどうあれ、これだけは言っておきましょう。私たちはみな、人生の進み方次第では彼らと同じ境遇になっていたのです。あなたは等身大の人間としてクライエントと関わり、また同時に、ソーシャルワーカー、カウンセラー、教師などの役割を果たすこととなります。人間の弱さを知ろうとせずに、人を裁き、支配することのないように!あなたが忘れてからもずっと、クライエントはあなたとの関わりを覚えていますからね。そして、クライエントがお粗末な選択を取ったときでさえも、ワーカーたるもの、彼らにとって意味のある、ポジティブで、元気がわいてくる支援を目指してください。そうすれば、毎日の仕事が、気持ちよく終えられるでしょうから。

 おわりに

もし、あなたがInsoo Kim BergやAndrew Turnellの著作を読んだことがないのなら、是非読んでみてください。もっとパーソナルで読みやすい内容がお望みなら、作家Bonnie Jo Campbellの"Q Road"か、エッセイストCheryl Strayedの"Tiny Beautiful Things"をおすすめします。どの本も、あなた自身をよく知る助けとなり、優しくてまっすぐな気持ちにしてくれることでしょう。

(この記事は、THE NEW SOCIAL WORKER 2013年冬季号に掲載されたものである)

------------------------------------------------------------------------------------------------------------

訳が曖昧なところは、後で直しておこう……。ソーシャルワーカーのみならず、教育や保育に携わる人にとっても箴言たりうるのでは。バイステックの7原則やブトゥリムの価値前提と重なる点も多く、やはり古典的名著に目を通す必要があるなと気づかされたり。

 

 

*1:Child Protective Services:児童虐待やネグレクトに対処する、アメリカの政府機関。州ごとに配置。

*2:勝手にワーカーが判断せず、クライエント本人の言葉で語る権利