生きづらさに立ち向かう 『ソーシャルワーカーという仕事』
書店をふらついてたら、面白そうな本があったので買ってみた。
ソーシャルワーカーという仕事 / 宮本節子
目次
第1章 ソーシャルワーカーが対象とする人々
第2章 ソーシャルワーカーがやっていること
第3章 ソーシャルワーカーの力
第4章 ソーシャルワーカーの仕事の広がり
ティーン向け新書こそ、大人向けの教科書だ
ちくまプリマー新書や岩波ジュニア新書は、どれも啓蒙書として一級品であり、とても読みやすい。10代~20代前半の若者向けに書かれているからといって、大人が敬遠するのはもったいない。本書では、ソーシャルワーカーという社会福祉の専門職の実態を、著者の30年以上に及ぶキャリアを通じて語りかける。
「生きづらさ」を緩和するための「支援」
福祉充実をうたう現代社会であっても、さまざまな理由で生活困難に陥る人々がいる。彼らが感じている「生きづらさ」とはなんだろうか?それは経済的困窮かもしれないし、学校のいじめや職場の不和など人間関係に起因するものかもしれない。「生きづらさ」は個人要因と環境要因が複合的に絡み合った問題であるため、ソーシャルワーカーはその両面から支援策を検討する必要がある。
今でこそ「支援」と呼ばれているが、かつて社会福祉領域では同様の意味を示すときに「救済保護」という用語が使われた。やがて「救済保護」は、「指導」、「援助」となり、「支援」に落ち着いていく(p.98)。言葉の変遷は、その言葉を用いる人々の意識の変遷と同義であり、すなわち「救う、護る、導く、助ける」という言葉が、要するに「上から目線」であり、ソーシャルワーカーの奢りを招く可能性があったのだ。あくまで活動の主体は、生きづらさを感じる人々であり、ソーシャルワーカーは彼らの問題解決にあたって「支える」立場に過ぎない。
社会の極め付きの矛盾と遭遇する(p.145)
この短くも力強いフレーズこそ、ソーシャルワーカーの特殊性や責務を示す言葉ではないだろうか?ホームレスを不法占拠と切り捨てては、なんの解決にもならないのは明らかで、ソーシャルワークの原点は、社会制度と市民の間に存在する隙間を埋めることにある。
「自分とは似ても似つかない人格を持った人を尊敬できるか?」(p.176)
ソーシャルワーカーの先駆者である、メアリー・リッチモンド(メアリー・リッチモンド - Wikipedia)の言葉より。ソーシャルワーカーを目指すすべての人々に向けた箴言であろう。
まとめと雑感
ソーシャルワーカーが実践場面で遭遇する諸問題については、実際に筆者が担当したケースを例に紹介されていくので、福祉ルポとしても読み応えある内容だった。社会福祉の道をめざす中高生を応援するために書かれた本書だが、大人の自分が読んでも勇気づけられる内容が多く、生きることの美しさを教えてくれる。